「AIで業務を効率化したい」「生徒対応や採点をAIに任せたい」──そう思って開発会社に問い合わせを始めると、ほとんどの場合こう聞かれます。

「何を作りたいですか?」「データはありますか?」「予算はおいくらでしょう?」

ここで具体的に答えられないと、見積もりはざっくりとした金額しか出てこず、各社の提案も比較できないままプロジェクトは止まってしまいます。AI開発の成否は、発注前の準備で7割が決まると言っても過言ではありません。

この記事では、学校・塾・スクールがAI開発を依頼する前に最低限決めておきたい6項目を、教育サービスを10年以上自社で運営してきた立場から整理します。これを読み終えた段階で、各社へのRFP(提案依頼書)作成に着手できるレベルまで持っていけることを目指します。

なぜ「依頼前の準備」がAI開発の成否を分けるのか

AI開発は、通常のシステム開発と比べて契約時点で成果物の中身が見えにくいという特殊性があります。経済産業省の「AI・データの利用に関する契約ガイドライン-AI編」でも、AI開発は学習データの内容によって成果物が大きく変わるため、契約形態は準委任型を推奨するケースが多いとされています。

つまり、「これを作ってください」とゴールを明示できなければ、ベンダーはあなたの業務を推測しながら開発を進めることになります。教育・スクールの現場知識を持っていないベンダーに推測で作らせると、出来上がったAIが現場で使われない結果に終わります。

これを防ぐには、発注側が次の6項目を自分の言葉で説明できる状態にしてから動き出すことです。

依頼前に決めておく6項目

項目①:解決したい課題と数値目標(KPI)

最初に決めるべきは「AIを使って何をするか」ではなく、「どの業務のどの数値を、どこまで改善したいか」です。

良くない例:

「AIで業務を効率化したい」

良い例:

講師1名あたり週8時間かかっている記述式答案の採点工数を、AI OCRで月20時間以下に削減したい。採点ミス率は現状の3%以下を維持する」

数値目標がないと、ベンダーは「精度95%のモデル」のような技術指標で見積もりを作ってきます。教育現場で本当に必要なのは、講師が安心して使える品質と、生徒・保護者へ説明できる根拠です。

決めておくこと:

  • 対象業務(例:採点/問い合わせ対応/生徒のレベル診断)
  • 改善したい数値(時間/件数/費用/満足度)
  • 達成期限(半年後/1年後)
  • 代替コスト(今その業務にいくらかけているか)

項目②:対象業務とユーザー像

「誰が、どこで、どう使うのか」を明確にします。AI開発のRFP(提案依頼書)でも、利用シーンの具体化は必須項目です。

教育・スクール業界では、AIを使うユーザーが複数いるケースが多くなります。

ユーザーよくある利用シーン重視されること
講師・教員採点/教材作成/生徒のフォロー業務時間削減・誤答対応の安心感
生徒質問対応/レベル診断/練習サポート操作の分かりやすさ・回答スピード
保護者学習報告/進捗確認信頼性・分かりやすい説明
運営スタッフ問い合わせ自動応答/予約最適化業務効率・トラブル時の切り戻し

ユーザーが違えば、必要な精度・UI・運用フローが違います。1つのAIに複数のユーザーを混在させる場合は、必ずユーザーごとに要件を分けて記述してください。

項目③:データの棚卸し

AI開発はデータがなければ始まりません。発注前に、自社が持っているデータを量・質・形式・権利関係の4軸で棚卸しします。

確認項目内容
件数・年数・1件あたりの情報量
欠損率・誤入力の有無・更新頻度
形式エクセル/PDF/紙/システム内DB/音声・動画
権利関係自社作成か外部購入か/生徒・保護者の利用同意

教育業界で特に注意すべきは、未成年の個人情報教材の著作権です。

  • 生徒名・成績・保護者連絡先などは、AI学習用に使う場合に保護者同意の再取得が必要になる可能性があります
  • 既存の市販教材を学習データに使うと、著作権侵害になるケースがあります
  • 生成AIに「Aさんの成績を分析して」と入力すると、その時点で外部サービスに個人情報が送信されます

データ準備が不十分なまま開発に進むと、開発フェーズの後半で「データが足りないので作り直し」となり、コストが膨らみます。

項目④:予算とフェーズ分け

AI開発の予算は、必ずPoC(概念実証)/本開発/運用保守の3フェーズで考えます。

教育業界での目安:

フェーズ期間予算目安目的
PoC1〜3ヶ月100万〜500万円技術検証・精度確認・本開発判断
本開発3〜6ヶ月500万〜2,000万円本番稼働可能なシステム構築
運用保守継続月10万〜50万円モデル再学習・障害対応

予算をベンダーに伝えると足元を見られそうで言いたくない、という声をよく聞きます。しかし、予算を伝えない方が損するケースの方が圧倒的に多いです。予算が不明な提案依頼を受けたベンダーは、リスクヘッジで高めの見積もりを出すか、提案自体を断ります。

決めておくこと:

  • PoCの予算上限(本開発に進まない判断もありえる前提)
  • 本開発に進む判断基準(精度・現場フィット・コスト)
  • 運用フェーズの年間予算

項目⑤:個人情報・著作権・データ保管ポリシー

教育データには、他業界とは違う「時間軸」があります。

  • 生徒は卒業・転校する
  • 学期・年度で区切られる
  • 未成年期間中のデータは大人になっても影響しうる

このため、データ保管・削除ポリシーは設計段階から決めておく必要があります

決めておくこと:

項目検討内容
データ保管場所国内サーバー/海外サーバー/オンプレミス
データ保管期間在籍中/卒業後N年/永久保管
削除ポリシー退会時/年度末/保護者請求時
アクセス権限講師/管理者/本人/保護者
暗号化通信時/保管時
監査ログ誰がいつアクセスしたか
第三者提供学習データとして再利用するか

生成AIを使う場合は追加で

  • プロンプトに個人情報を入れない運用ルール
  • ハルシネーション(誤情報生成)への対処フロー
  • 人の最終確認を必須化する業務工程

項目⑥:運用体制と契約形態

AI開発は納品して終わりではない点が、他のシステム開発との大きな違いです。

学期切り替え、年度更新、新カリキュラム追加、生徒データの増加に伴うモデル再学習──。教育機関には独特の運用サイクルがあり、これに伴走してくれる体制を契約段階で確保する必要があります。

決めておくこと:

運用体制

  • モデル再学習のタイミング(月次/学期ごと/年度ごと)
  • 精度低下時の対応フロー
  • トラブル発生時の連絡体制(24時間/営業時間内)
  • 担当者の引継ぎルール

契約形態

  • 請負契約:完成責任あり。仕様が完全に固まっていれば有効
  • 準委任契約:作業を引き受ける契約。AI開発はこちらが主流
  • 段階契約:PoCと本開発で別契約にする。リスク分散できる

知的財産権の帰属

  • 学習済みモデルの著作権はどちらに帰属するか
  • ソースコード・ドキュメントの所有権
  • 同業他社への再販制限(独占条項)

経済産業省のAI契約ガイドラインも、教育機関向けの基礎資料として一度目を通しておくことを推奨します。

提案依頼書(RFP)を作るときの最低限の構成

6項目が決まれば、複数社に同時提案を依頼するためのRFP(提案依頼書)を作成できます。最低限の構成は以下の通りです。

  1. プロジェクトの概要:背景・目的・期待する成果
  2. 対象業務とユーザー像:項目②の内容
  3. 解決したい課題とKPI:項目①の内容
  4. 保有データの説明:項目③の内容
  5. 予算とフェーズ:項目④の内容
  6. データ・契約条件:項目⑤・⑥の内容
  7. 提案してほしい内容:技術構成・体制・期間・見積もり
  8. 選定基準と選定スケジュール:いつまでに何社に絞るか

「使いやすいシステム」「高速な処理」のような抽象的な要件は避け、客観的な数値で記述するのがRFPの鉄則です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 個人塾・小規模スクールでもAI開発を依頼できますか?

A. 可能です。発注先のタイプを選べば、PoCで100万円台、本開発で500万円程度から取り組める案件があります。重要なのはスコープを絞ることです。最初から「全業務をAI化」と広げず、「採点」「問い合わせ対応」など1〜2業務に絞れば、小規模でも現実的な発注ができます。

Q2. 自社のデータが少なくてもAIは作れますか?

A. 業務によります。生徒1人あたりの学習データを大量に必要とする深層学習モデルには数千〜数万件のデータが必要ですが、ルールベース+生成AIの組み合わせなら、データが少なくても運用可能なAIを作れます。発注前にデータの棚卸しをすれば、ベンダー側で最適な手法を提案できます。

Q3. AI開発の契約は請負と準委任、どちらがいいですか?

A. AI開発は準委任契約が主流です。AI開発は契約時点で成果物の精度を保証することが難しいため、「作業を引き受ける」準委任型が現実的です。ただし、PoCで成果が見えた後の本開発フェーズでは、仕様が固まれば請負契約にする選択肢もあります。段階契約(PoCと本開発を分ける)でリスクを分散するのが教育業界では一般的です。

Q4. 生徒の個人情報を学習データに使うとき、何に気をつけるべきですか?

A. 保護者同意の取得範囲データの保管場所と期間削除ポリシーを発注前に決めておきましょう。学習用に使う場合は、氏名・連絡先などの個人特定情報を匿名化・統計化して使うのが基本です。生成AIに個人情報を入力しない運用ルールも必須です。

Q5. PoCで終わって本開発に進まないケースが多いと聞きました

A. これはAI開発業界全体の課題で、原因の多くはPoC前の準備不足にあります。PoCで何を検証したいかが曖昧だと、結果が出ても「これで本開発に進む価値があるか」を判断できません。PoC開始前に「本開発に進む判断基準」を数値で合意しておくことが、この問題を防ぐ最も有効な対策です。

教育現場を知るパートナーと組めば、依頼準備の負担も最小化できる

ここまで「依頼前に決めておく6項目」を解説してきましたが、正直に言えば、これらをすべて発注側だけで準備するのは大きな負担です。日々の運営をしながら、課題の数値化・データ棚卸し・契約条件の整理を進めるのは現実的に難しい場合が多いはずです。

そこで重要になるのが、「依頼準備の段階から伴走してくれるAI開発会社」を選ぶこと。教育現場の業務を理解している会社なら、課題の言語化からRFP作成までを一緒に進めてくれます。

WTEが学校・塾・スクールのAI開発依頼に選ばれる3つの理由:

1. 教育現場の課題を「翻訳」できる
ワールドトーク(オンライン英会話)・KIRIHARA Online Academyを10年以上自社運営してきた現場経験から、「講師が困っていること」「生徒の継続要因」「運営者の業務負荷」を共通言語で話せます。発注前の課題整理から一緒に進められます。

2. 200社以上の教育系スクール運営支援実績
英会話・語学・音楽・プログラミング・塾・家庭教師・フィットネス・カウンセリングなど多業種の業務フローを把握しているため、「同業他社で機能した設計」を御社の業種に応用できます。

3. PoC→本開発→運用までフェーズごとの伴走
段階契約(準委任型)でリスクを分散しながら、PoCの検証設計から本開発、運用フェーズのモデル再学習・トラブル対応まで一貫してご提案します。AIだけでなく、予約・決済・会員管理システムとの統合まで設計できるのも、自社で予約システムを開発・運用してきたWTEならではの強みです。

「うちの業務でAIが使えるのか、まず相談だけしたい」「6項目をどう書けばいいか分からない」──。そんな段階こそ、お気軽にお問い合わせください。10年以上の現場運営ノウハウを持つWTEが、御社のAI開発依頼準備を全力でサポートします。

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